倒産に瀕した企業の再生を図るため、平成12年4月1日に施行された民事再生法に従って、債務者が裁判所の関与のもと、一定数の債権者の同意を得て、債務の一部免除を得たり、分割弁済をしていきながら、企業の再建を図っていくというものです。
民事再生の申立は、
(1)破産してしまうおそれがある
(2)事業継続のために必要な資産を手放してしまわないと債務を弁済することが困難である
などの状況の場合にすることができます。実際に破産原因が無くとも、そのおそれがあれば足りますので、再建が手遅れになる前に対処することができるようになっています。
債務者(もしくは債権者)による再生手続き開始申し立て後、弁済禁止保全処分命令の発令、監督委員(下記参照)の選任、再生手続開始の要件の審査を経て、再生手続開始が決定します。
その後、債権調査手続と会社財産の評定を行い、債務者が再生計画案を作成して、裁判所に提出します。これが債権者集会などで可決され、裁判所がこれを認可すれば、その再生計画が確定します。おおよそ申し立てから2週間程度で手続開始の可否が判断され、通常6ヶ月以内には債権者集会が開かれています。従来の手続きに比べ非常に迅速に手続きが進みます。
手続 申し立てからの日数(東京地裁の場合の目安)
申し立てからの日数
予納金納付 0日
監督委員選任 0日
開始決定 1週間
計画案提出 3ヶ月
債権者集会・認否決定 5ヶ月
再生手続きを進めるために裁判所に予め納めておく費用のことで、通信費・官報広告費などに使われます。
予納金基準額(東京地裁の場合の目安)
負債総額
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予納金基準額
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5000万円未満
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200万円
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5000万円~1億円未満
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300万円
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1億円~5億円未満
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400万円
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5億円~10億円未満
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500万円
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10億円 ~ 50億円未満
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600万円
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50億円 ~ 100億円未満
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700万円
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100億円 ~ 250億円未満
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900万円
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250億円 ~ 500億円未満
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1000万円
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500億円 ~ 1000億円未満
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1200万円
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1000億円以上
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1300万円
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裁判所が選定した委員のことで、普通は弁護士が選任されます。債務者の調査監督や経営の重要事項の決定に同意を与えたりします。監督委員がいることで、債権者の信頼も確保しやすく再建への同意が得られやすくなるといえます。東京地裁では全件について監督委員を選定しています。
民事再生の特徴として、手続きが開始されても、原則として経営陣は引き続き経営を続けることが可能であることが挙げられます。ただし、具体的には裁判所により監督委員が選任されることが多く、重要事項についてはその監督委員の同意が必要となります。
経営陣がこの同意を得ずに、勝手に指定された行為を行ったような場合には、再生手続きが打ち切られ、裁判所が職権で破産宣告をすることもあるので注意が必要です。また、経営陣が経営を継続することが不適当であれば、経営権が管財人に引き継がれる場合もあります。
原則として、雇用関係に影響はありません。未払いの給与についてもある程度は一般優先債権として支払うことが可能です。
ただし、再生手続中に、今後をみすえて経営の改善を行っていく必要がありますが、不採算部門の撤退や、経費の切り詰めなどリストラの一環として、解雇することになる可能性もあります。
民事再生では、原則として担保権の行使を禁止することはできません。しかし、担保権の実行により事業継続に必要な資産が換価されてしまい、再建が困難になるような場合には厳しい条件のもと裁判所の裁量でその権利行使を中止することができます。具体的なことはご相談ください。
再生計画案は、再生債務者が作成しますので、会社の状況に応じて、90%以上の免除から、全く免除してもらわない計画案まで幅広くあります。
どの程度まで免除してもらうかの上限については、清算価値保障原則という原則があります。会社が破産した場合よりも多く債権者に支払わないといけないという原則で、要するに会社資産額(時価)から手続費用などを差し引いた金額よりも計画案による支払い額の方が多くなければならないということです。
また、下限は、会社の状況からみて支払う見込みがなければなりません。支払う見込みがないとなれば、裁判所から債権者に諮っていただけません。
民事再生法施行から約2年間で、東京地裁で受理された再生手続について、会社の再生計画案は、約90%が可決されています。免除率0%で否決されたり、免除率90%以上で可決された事例もあるようです。
債権者集会での投票は、免除について賛成をもらうと考えると同意してもらえないように思えますが、後述のように否決されると破産することになりますので、破産するか事業を継続して弁済するかという選択だと考えると賛成して頂けるのも、債権者の立場にたって考えてみればうなずけると思います。
もちろん、破産か再生かの選択になりますので、破産する場合よりも相当程度有利な計画案を出さなければなりません。
破産にうつります。
(1) 再生手続きまたは再生計画が法律の規定に違反するとき
(2) 再生計画が遂行される見込みがないとき
(3) 再生計画の決議が不正の方法によって成立するに至ったとき
(4) 再生計画の決議が再生債権者の一般の利益に反するとき
つまり、再生計画が認可されるのは、再生計画案が再生債権者の法定多数(総再生債権額の過半額かつ投票債権者数の過半数)により可決され、裁判所が上記の再生不認可事由が存在しないと認められた場合ということになります。
民事再生と同じく再建型の倒産制度であり、債権者数が多く、その債権額も大きい大規模な会社を想定して定められた制度です。
簡単に言えば、会社更生は多数の関係人の利害を調整するために、その手続きが民事再生と比較して大変複雑かつ厳格であるということです。具体的には
会社更生 民事再生
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申し立て資格
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株式会社のみ 法人から個人まで可能
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会社の経営権
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管財人に引き継がれる 従来の経営陣が経営できる
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手続きの迅速さ
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(申立から認可まで)数年 (申立から認可まで)半年強
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担保権
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行使禁止 行使可能
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どちらが適しているかは個別に判断する必要があります。一般的に大企業は会社更生、中小企業は民事再生が適しているといえるでしょう。詳細はご相談ください。
民事再生法により、会社に再建への余力があるうちに具体的な対策を講じることができるようになったのですから、これを利用しない手はありません。借入金が多くなりすぎるなど、再生の可能性がなくなってきた段階では、破産申立をするほかなくなってしまうこともありますので、なるべく早い段階で相談されることをおすすめします。
前述の予納金と収入印紙10,000円、債権者数に応じた切手がかかります。
同額の着手金が一般的です。詳細はご相談ください。
民事再生申立後に、清算貸借対照表の作成、財務資料の整理、財産評定書の作成 等の作業のために、公認会計士(税理士)への依頼が必要となります。
裁判所によって選任される監督委員の補助者として公認会計士が選ばれるのが通常 ですから、その会計上の議論のためにも公認会計士は必要となります。
ご信頼されている公認会計士がいらっしゃるなら、そちらにご依頼された方がよいでしょう。お心当たりがないようでしたら、当事務所からご紹介することも可能です。
費用は会計士との交渉次第です。
事業譲渡型の再生の場合、スポンサーへの事業譲渡を検討する際に、スポンサーの発掘、選定業務をアドバイザー会社(サービサーへ依頼するのが普通です。)に委託する場合に必要な費用です。
また、会社の状況にもよりますが、アドバイザー会社に申立後の運転資金の借り入れ(DIPファイナンス)に応じていただける場合もあります。
費用はアドバイサーとの交渉次第です。
ITJでは、ご契約から3日以内で民事再生の申立をおこなったケースが3社あります。
ITJで申立をおこない再生計画の認可を受けた事例について事業譲渡型と自主再建型をそれぞれご紹介します。
ケース1
負債総額約14億円
業種 サービス業
再生計画の弁済率は 約9%
事業譲渡型の再生計画で認可決定を頂きました。
ケース2
負債総額約15億円
業種 建設業
再生計画の弁済率は 約11%
自主再建型の再生計画で認可決定を頂きました。
クライアントの方から頂いた体験談です。
急逝した実父に代わり、夫と共に私が会社の経営に携わるようになったのが平成17年。
父はワンマン経営者でしたが、会社は数十年のあいだ順風満帆でした。
それを狂わせたのが平成6年12月に起きた「三陸はるか沖地震」という大きな地震でした。
その頃はバブル崩壊後ではあったものの、地方にはまだ何となくバブルの余韻が残っていました。老朽化が進んでいた自社ビルが地震のために使えなくなったことで父は自社ビル建設することを決意したようです。
ビル建設のためにの借入金は数億。会社の規模から考えるとそれはとても大きなものでした。
5年ほど経つと返済が苦しくなり、無理をすれば資金ショートを起こしかねない状態に陥りました。そこで借入先の金融機関の協力を受け「ほんの少しの元金と利息」を払う条件に変更してもらうことになりました。
それから世の中は急速に現在の大不況へと変化していきます。
父の持病が悪化したのもこの頃です。
その時の私はまだ父の会社経営にまったく携わっておらず、時おり父がポツリと漏らす言葉が今でも忘れられません。
「うちみたいな小さな会社は民事再生なんてできないんだろうなあ」。
条件変更してもらった金額を毎月やっとの思いで返済している頃のことでした。
そして平成19年、会社の状態は恐れていた「資金ショート」の時期が予測できるほど悪くなっていました。
父の建てた自社ビルは、一部をテナント、そして残りを直営の飲食店という形で運営されていましたが、不況下での家賃の値下げやテナント退去が相次ぎ、直営店の売上も年々減少。
「このままではあと1年持つかどうかわからない。何とかしなければ。」
そんな時、亡父の言葉がふと浮かびました。
“民事再生法”
とはいえ私自身もテレビや新聞などで報道されている「民事再生法認可」などというニュースに対し「大きな会社しかできないんだろうなあ」と勝手に思い込んでいました。
しかしそれを確かめたわけではありません。
取りあえずは「民事再生法申請の条件」を確かめることに重点を置き、インターネットで法人の民事再生を手掛けている弁護士事務所を探すことにしました。
近隣県の弁護士事務所にメールで問い合わせましたが、どこもパッとした返答ではありませんでした。
「個人民事再生しか手掛けたことがないのでちょっと自信がないですねえ」
「債務が数億という大きな民事再生はうちではちょっと…」
「小額の民事再生しかやったことがないので…」
比較的大きな地方都市でさえ反応が良い弁護士事務所がなく、知りたいことすら確かめることができませんでした。
そして検索範囲は東京まで広がりました。
そこで出会ったのがITJ法律事務所です。
そこは「弁護士事務所を訪れる前に少しでも情報を得たい」という、法律に関してまったく知識がない素人の私にとって非常に親切なホームページでした。
現在はリニューアルされましたが、その時は数十ページにおよぶQ&A方式の疑問解決ページや、法律の専門用語に関してのとても詳細な説明ページまであり、まるで1冊の本のようでした。
さっそく問い合わせのメールを送ることに。
返事はすぐに来ました。
「事情を伺いましょう。すべてはそこからです。」
その時の返信メールの正確な文面は忘れてしまいましたが、「厄介な事情があろうと何とかしてお助けしましょう」というような自信に満ち溢れた言葉が添えられてありました。
ITJ法律事務所を訪ね、夫と共に上京。
私たちはシンプルで上品な部屋に通されました。間もなく部屋に入って来た戸田泉先生に私たちは会社の現状と今までの経緯を話しました。
すると戸田先生の口からは意外な言葉が返ってきました。
「民事再生はできますよ。その他にも方法はいろいろあります。まずは苦しい資金繰のために返済をストップしましょう。」
(ええ~~!? そんなことして大丈夫なの!?)
口には出しませんでしたが、正直言って面くらいました。
そんな事をしたら取引先の金融機関との状態はどうなるのだろうか。
この先生に任せて大丈夫なのだろうか。
不安でいっぱいになった私たちは取りあえず帰りました。
その後何度もITJの事務所に行きましたが、結局、決心がつくまでに1年近くかかってしまいました。
「ウチの場合ってどういうふうになるんだろう」
そんな疑問が次々わいてくるのです。
専門書を買って読んだり、インターネットで調べみたり。
結論から言うと、悩んだ1年は「時間と返済金のムダ」でした。
1年も決心できなかった理由は、「知識のなさ」です。法律の知識がないばっかりに経験がないばっかりにムダに悩んでしまうのです。
そうこうしているうちに会社の状態は悪化していき、悩んでる時間さえなくなりました。
「任せるしかない。やってみるしかない。」
そして私たちはやっと民事再生法申請へと動き出しました。
最初の大仕事は取引先への相談でした。
まずは資金繰りを圧迫している返済を一時停止するために、金融機関への相談です。
東京から出向いて下さった戸田先生は、取引先の金融機関の方々に丁寧に現状を説明しました。
-このままでは会社の破たんが近いこと
-会社破たんは会社に関係するすべてにとってマイナスであること
このことを説明し終えた戸田先生は、“民事再生法を裁判所に申請すること”を金融機関の方々に告げ、そして「それについて協力をお願いしたい」旨を話されました。
会社破たんはその会社だけでなく、たくさんの人々に迷惑がかかってしまいます。
金融機関はもちろんのこと、その会社で働く人の生活、仕入先、その他いろいろな影響があります。弊社の場合、今までさまざまな協力をして下さった某金融機関に恩をあだで返す結果となってしまいましたが、破たんとなればその金融機関がこうむる損失はそれ以上だったかもしれません。
そして裁判所への「民事再生法申請」が提出され、それは即日受理されました。